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「医療と介護の相談」講演の記録その2 心理士はどこで何をやっている?

今泉台6丁目クラブ

前回のまとめと質問

 前回は「心理士は科学の衣をまとった現代のシャーマンである」という話をしました。 心理士はこころの問題と考えられる現象を前世やオーラなどによって説明しません。また、「自分もそうだった」という当事者性を使って援助をしません。そのような人間からサービスを受けたいという場合は、その人の資格を確認するとよいです。

  • 臨床心理士
  • 公認心理師

このふたつの資格は最低限、自然科学的な心理学やカウンセリングや心理療法の伝統を受け継ぐ教育を受けているか、それと同等の知識や経験があることを保証する資格です。

 

Q:心理士の仕事の対象が新興宗教の対象と重なるところがあるのではないか。

A:はい。実際、その通りではないかと思います。宗教が苦しみの理由やその救済の方法に確かな「答え」を持っているのに対して、わたしたち心理士はそのような確たる答えを提供できません。心理学の知識や心理療法の経験を用いて、ある程度は「こうすればよい方向に行くのでは」という仮説を立てますが、相談者の方と一緒に迷ったり試行錯誤しながら、わからない不安を抱えて支援を行うことがあります。ただ、簡単に答えを出せない人生の困難に対してすぐさま答えを出すのではなく、個別的な人生の困難と複雑さに根気強く付き合ってもらえるという面で、自分たちの仕事には価値があると思っています。

1.5 精神科医との違い

われわれ心理士の仕事と精神科医の仕事の決定的な違いに「診断」と「投薬」の有無があります。よく誤解されるところなのですが、日本では心理士が「診断」という医療行為を行うことが許されていません。ですので、「発達障害ではないか」「鬱なのではないか」というご相談に乗るとしても、診断を確定させるお手伝いは残念ながらできない点に注意が必要です。

それからもうひとつ。医師は「業務独占資格」といって、医師の仕事は医師の国家資格を持っていない人が行うと犯罪になるのですが、心理士の行う心理カウンセリングを含めた相談業務はどんな人でもやってよい業務内容です。臨床心理士・公認心理師の資格は「名称独占資格」といって、資格を持っていない人は「臨床心理士」や「公認心理師」と名乗れないだけの資格です。ですので、ここにお集まりの皆さんも、このブログをお読みの皆さんも、カウンセラーを名乗って商売することはいつでも可能です。

1.6 心理士はどこにいるか

では、臨床心理士や公認心理師の資格をもった人間はどこでどんな仕事をしているか。あまり知られていないですけれど、けっこう色んなところに居ます。ものすごくざっくりと説明しますね。

臨床心理士がどんな場所で働いているか
日本臨床心理士会のホームページより引用 http://www.jsccp.jp/person/scene.php

大学・研究所

教養科目として心理学を教えたり、臨床心理士や公認心理師の養成を行っています。研究によって社会に役立つ心理学の知見を生み出したり、効果的な心理的支援の技法を考案しています。

司法・法務・警察

家庭裁判所や少年鑑別所では、犯罪や非行を犯した人の動機や更生のために必要な支援などを心理学的な視点から調査する仕事をしています。少年院や刑務所では、カウンセリングなどの心理的支援も提供されることがあります。実際に少年犯罪や薬物使用の多くのケースでは、貧困や被虐待環境といった家庭環境の問題、知的なハンディや精神障害などが関わっています。そのような場合は刑罰だけでなく必要な支援が届けられなければなりません。大事なことは再犯を予防し、その人が社会のなかで安心して居られるようになることだからです。

医療・保険

もっともイメージしやすい領域のひとつだと思います。2023年現在では、心理士が雇われている医療機関が結構あります。精神科や心療内科での援助は薬物療法が主流です。鬱や不安といった症状に対して、薬によって体の物質的な変化を引き起こすことで改善を図ろうということですね。ただし、薬では変化が乏しい症状、その人の置かれている生活状況や家族関係を整えなければいけないとか、その人の物の見方や考え方が症状を維持したり悪化させたりしているといった場合もあります。その時に心理士がカウンセリングや心理療法といった支援を提供するということですね。

福祉

児童相談所では療育手帳の判定のための知能検査や発達検査を行う人、被虐待児のケアや、加害者である親の心理的ケアなどを行う人がいます(この虐待対応については、報告件数に対して人員不足が指摘されているところで、残念ながら理想的な支援を行うことができない自治体も多いようです)。暴力の加害者側も、かつては被害者であったり、社会的に孤立をしていたり、精神疾患があるなど、ケアを必要としている人が大勢いることを是非しっておいてください。自治体が運営する子育て支援センターでは、心理士が相談に応じることができます。

教育

神奈川県では公立の小・中学校ではほとんどの学校にスクールカウンセラーが勤務している状況です。いじめ、不登校、習熟不良など、児童生徒のこころの問題や学習の問題に関して心理学の視点から状況を整理して必要な支援を行うことが期待されています。自治体が運営する教育相談センターにも心理士が配備されていて、子どもにケアを提供したり、親御さんの相談にのったり、必要に応じて医療や学校現場と連携をとっています。

産業・労働

ハローワークや就業支援の場でも心理士は活躍しています。療育手帳や精神障害者福祉手帳を取得されたハンディのある人達が社会のなかで自分の能力を生かしていけるよう、仕事とのマッチングを手伝ったり、就職後の職場の定着を手伝ったりしています。また、大きな企業では社内に健康管理室を設けていて、そこに保健師さんなどと一緒に心理士も雇われていることがあります。意外と知られていないところだと、健康保険組合が従業員支援プログラムの一環として、提携している心理相談室での面接料金を年数回まで無料で受けることができるサービスを実施している企業もあります。所属している健康保険組合のホームページなどから問い合わせてみてください。

私設心理相談

最後が私設相談室ですね。私のように個人でお店を出していたり、何人かで集まってカウンセリングサービスを提供しています。基本的に雇われの仕事は臨床心理士や公認心理士師の資格を求められることが大半なのですが、この領域は色んな人が色んなカウンセリングをしています。さっきもお話したとおり、カウンセリングは法的には誰でもやれることになっているからですね。カウンセラーになりたい人というのは結構多くて、研修会をやって参加者に独自の資格を発行するような資格ビジネスもあったりします。社会のマーケットのなかには、臨床心理士・公認心理師といった資格を持った人間もいれば、私の知らない資格をたくさん持っている人もいますね。

さて、ここまでが第一部です。心理士がどんな人間で、どこで何をやっているかという話でした。次の第二部では、心理士は「こころの健康」なるものをどう考えているかというお話です。

次のお話

「医療と介護の相談」講演の記録その3 こころの健康とは何か